制度の概要と背景

「デ・ミニミス(de minimis)」とは?
国際貿易における通関制度の一つで、輸入品の価値が一定額以下であれば関税や輸入消費税の徴収を免除し、通関手続きを簡素化する仕組みです。
「de minimis」はラテン語で「取るに足らないもの」という意味で、各国が独自に上限額を定めています。

  • 日本:約10,000円
  • EU:150ユーロ(2021年7月にVAT免除廃止)
  • カナダ:20カナダドル(例外的にUSMCA加盟国からは150カナダドル)
  • 米国:800ドル(2016年以降)

米国での上限額引き上げの背景(2016年)
米国は2016年、上限額を200ドルから800ドルへ引き上げました。
理由は以下の通りです:

  1. 国際ECの急成長:Amazon、eBay、Alibabaなどが台頭し、海外からの少額購入が急増していた。
  2. 税関の負担軽減:低価格商品を1件ずつ審査・課税する手間やコストを減らすため。
  3. 消費者利便性の向上:免税枠の拡大は、越境ショッピングの拡大に直結し、国内消費を刺激。

制度が招いた副作用

  • 中国・香港からの低価格大量輸入
    例:アパレル(Shein)、雑貨・家電(Temu、AliExpress)などが、免税枠を活用し直接消費者に配送。
  • 国内産業への圧迫
    米国製品より低価格の商品が無関税で大量流入し、アパレル・雑貨・日用品などの国内中小メーカーや小売業が競争力を失う。
  • 安全規制の抜け道
    関税検査や規制対象外となるケースが増え、粗悪品や安全基準を満たさない製品の流入を許す温床となった。

結果として、消費者には短期的メリットがあった一方で、雇用・安全・税収面でのマイナス影響が深刻化し、制度見直しの議論が本格化しました。

廃止による影響

消費者への影響

  1. 価格上昇の直撃
    • 免税廃止により、1ドルの商品からでも関税と通関手続き費用が発生。
    • 例:日本から米国へ約400ドルの万年筆を送る場合、関税率が20%なら80ドル、50%なら200ドルの追加コストがかかる。さらに通関手数料(15〜30ドル程度)も加わるため、総額は元の価格より30〜50%高くなる可能性。
  2. 生活必需品のコスト増
    • 日本の食品(お茶、菓子類)、韓国の化粧品、ヨーロッパの調理器具など、これまで気軽に個人輸入できた商品も対象に。
    • 特に保存食や嗜好品はまとめ買い需要が一時的に急増し、その後は輸入頻度が低下する傾向が予想される。
  3. ギフト・少額購入への影響
    • 海外の友人からのプレゼントやハンドメイド商品の少額輸入も課税対象に。ギフトであっても「商業輸入」とみなされるケースが増える。

事業者への影響

  1. 中国系EC(Temu・Shein)のモデル崩壊
    • これまで中国から直送することで在庫リスクゼロ・関税ゼロを実現していたが、廃止により全商品に関税がかかるため、米国内に倉庫を構えた配送モデルへ移行。
    • 移行後は在庫保持・国内配送費用が増え、低価格戦略の維持が困難に。
  2. Etsy・eBayの中小セラーの苦境
    • ハンドメイド作家や小規模輸出業者は、商品の単価に対して関税・手数料が割高になり、価格競争力を喪失。
    • 通関業務の経験がない個人セラーは、HSコードの設定やインボイス作成に不慣れで、配送遅延や返品リスクが高まる。
  3. 物流業者の業務負担増
    • 免税廃止により、従来不要だった詳細な通関データ入力(商品説明、HSコード、原産国、価格)が必須化。
    • 1件ごとの処理時間が増え、人員増強やシステム改修が必要になる。通関遅延の発生確率も上昇。

関税支払いのタイミング

1. 着払い方式(DAP/Delivered At Place)

  • 支払いタイミング:商品到着時に、バイヤー(受取人)が配送業者へ支払う。
  • 特徴
    • eBayなどでは最も一般的。セラーは関税を立て替えない。
    • バイヤーは商品到着時に関税・消費税・通関手数料をまとめて請求される。
    • 支払拒否や不在で受け取り拒否されるリスクあり。
    • DHLやFedExで「関税元払い」を指定しない場合は基本的にこれ。

2. 事前支払い方式(DDP/Delivered Duty Paid)

  • 支払いタイミング:発送時にセラーが関税・税金を事前に支払い、販売価格に含める。
  • 特徴
    • バイヤーは追加支払いなしで受け取れるため、購入ハードルが下がる。
    • セラーが関税分を計算・立て替える必要がある。
    • キャリアによっては事前計算や精算システムが必要(DHLは比較的柔軟、FedExは契約条件次第)。
    • eBayの「国際配送プログラム(eBay International Shipping)」やDHLのDDPサービス。

3. 後日請求方式(ポストクリアランス課金)

  • 支払いタイミング:配送業者が先に立て替えて通関し、後日請求書が届く。
  • 特徴
    • FedExやUPSで企業契約している場合に多い。
    • 商品はすぐ届くが、数週間後に関税・手数料の請求がくる。
    • 請求額が予想より高くなる場合があり、キャッシュフロー管理が必要。

米国「デ・ミニミス」免税廃止によるeBayセラーへの影響

1. コスト面の影響

  • 関税負担の発生
    • これまで800ドル以下の商品は関税ゼロだったが、2025年8月29日以降は1ドルの商品から課税対象。
    • 例:米国バイヤーに150ドルの腕時計を発送 → 関税率10%の場合、15ドルの追加コストが発生。
    • 関税は基本的にバイヤー負担だが、支払いの煩雑さからキャンセルや購入控えの可能性が高まる。
  • 通関手数料の増加
    • FedExやUPS、USPSなどの配送業者が課す通関手数料(15〜30ドル程度)が少額商品でも発生。

2. 取引量・売上への影響

  • 米国向け販売の減少
    • 関税と手数料で総額が高くなり、バイヤーの購買意欲低下。
    • 特に低価格帯(〜200ドル)の商品は影響が大きく、衝動買いが減少。
  • 競争力低下
    • 米国内在庫を持つセラーや現地セラーに比べ、海外発送セラーは配送日数・総額で不利に。

3. 業務負担の増加

  • 通関書類の精緻化
    • HSコード、原産国、商品詳細の正確な記載が必須化。
    • 記載不備や不正確な申告は遅延や返送リスクを招く。
  • 顧客対応コストの増加
    • バイヤーからの「関税が高すぎる」「事前に知らせてほしかった」といったクレーム対応が増加。
    • 事前説明不足によるネガティブフィードバックのリスク。

4. セラーの対応策

  1. 米国内倉庫の活用
    • eBayの「海外販売プログラム(eBay International Shipping)」やFBAのマルチチャネル配送、3PL倉庫を利用して現地在庫を確保。
  2. 事前関税込み価格(DDP)の設定
    • バイヤーが支払う総額に関税・手数料を含め、購入時点で確定額を提示。
  3. 商品説明欄での明記
    • 「米国バイヤーは関税・税金がかかります」など、購入前に負担を明示してトラブルを防止。
  4. 高単価・高付加価値商品へのシフト
    • 関税や送料の割合が相対的に小さい高価格帯商品に注力。

まとめ

今回の制度変更は、「米国向け販売を今まで通り続けられるか」の分岐点です。
在庫戦略・価格設定・説明文を早急に見直し、8月29日以降の混乱を最小限に抑えましょう。

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